ジャカルタに行ったらヤギを食らうべし

 インドネシアの首都であるジャカルタには仕事で何度も訪れているが、経済成長著しく、行く度に景色が変わるので全く飽きさせない。車の窓から外の様子を眺めていると、前回来た時には何もなかったところにどでかいショッピングモールや新しいホテルが建っていたりするので、行ってみたい場所リストの項目が次から次へと増えている。あいにくこちらは仕事で来ているので、なかなかリストを消化できないのが悩みである。よしんば仕事が早く終わって午後の時間をフルに使えたとしても、ジャカルタは渋滞が激しく、東京なら車で15分ほどの距離を移動するのに平気で1,2時間かかったりするので、容易に何箇所も回ることはできないのである。渋滞が酷くてどうにもならない時は、そこらのあんちゃんが運転するバイクの後ろに跨って、車の間を縫うように走っていくオジェックというサービスがあるのだが、僕は身体が大きいせいか、何度乗ってもおっかない思いをするうえに、大気汚染が酷くて喉が痛くなるので、あまり利用したくない。渋滞緩和の策として、最近になってようやくジャカルタにも地下鉄を走らせようという計画が持ち上がり、目抜き通りのタムリン通りでは既に工事が始まっているようだが、実際に開通するのは何年先のことになるか分からない。
 ジャカルタ都心部は上述の通り盛んに開発されているが、少し郊外に出ると、青々とした田畑が目の前に広がり、豊かに生い茂った木々がざわざわと風にそよぎ、鳥たちが美しい声で鳴いているような、まさに熱帯の楽園といった雰囲気を楽しむことができる。きらびやかなショッピングモールも魅力的だが、いつか時間があったら、こうした景色の中をのんびり散歩して、どこかゆったりと座れる椅子でもあったら日がなコーヒーでも飲んでいたいと思っている。
 コーヒーと言えば、インドネシアでは実に美味いコーヒーが飲める。僕は生まれてこの方コーヒーが苦手であったのだが、インドネシアで勧められたコーヒーをしぶしぶ飲んでみたら大変美味かったので、それ以来僕はジャカルタに行くと好んでコーヒーを飲むことにしている。そこらの店で売っているようなコーヒー豆であっても、匂いを嗅がせてもらうと、実に深くて芳しい香りがする。コーヒー好きな人にはインドネシア土産にコーヒー豆を買っていくことにしている。
 食べ物についても、焼きそばやラーメンのような料理はそこかしこで食うことができるので、あまり苦労したことがない。ただし、悪い油を使っているような店や、あまり衛生的でない店で飯を食うと、直後に猛烈な下痢や嘔吐に苦しむことになる。そこへ行くと、串に刺した肉を炭火で焼いたようなものは、道端で売っているようなものを食べたとしても、少なくとも火は通っているので安全に食べることができる。見た目は日本でもよく見る焼き鳥と全く同じなのだが、インドネシアやフィリピンでもサテという名称でよく食べられている。
 僕にとっては意外なことだったが、インドネシアでは大変美味しい鶏肉を食べることができるのである。街を歩いていると、そこらに放し飼いになっているニワトリをよく見かけるが、日本にいるニワトリよりも大分痩せているように見える。おそらくは外を走り回っているようなニワトリを絞めてそのまま焼いているので、身が締まっていて美味いのではなかろうか。ちなみに、ニワトリだけでなく、猫も日本の猫より大分痩せているが、これは食生活の違いだろう。ここまで書いて気付いたことだが、インドネシアの方が日本よりも痩せているのはニワトリや猫だけでなく、人間も同じことであった。
 さて、サテに使われる肉は鶏肉だけではない。日本では豚肉を焼き鳥のように串にさして焼く、焼きとんというのがあるが、ジャカルタイスラム教徒がほとんどなので、豚肉をそこらの道端で見かけることはまずない。一昔前は中華街でようやく豚肉が食える食堂があったくらいのものだったが、今では大きなショッピングモールに行くと、必ず一軒はとんかつ屋を見かけるのだから時代は変わったものだ。よく敬虔なイスラム教徒から抗議されないもんだと不思議に思う。少し脱線したが、鶏の他にヤギの肉を使ったサテというのがあって、僕はこれがすこぶる気に入っていて、ジャカルタに行ったら一度は食わないと気が収まらない。
 鶏肉は余分な脂が落ちていて美味いのだが、逆にヤギの肉は脂が乗っていて、味は牛肉に近いのだが、少し乳臭いようなクセがある。それが甘辛のタレと絡み合うと、えもいわれぬハーモニーをかもし出すのである。独特のクセがあるので人によって好き嫌いはあろうが、日本ではなかなかヤギの肉は食べられるものではないので、インドネシアに行ったら是非試していただきたい。
 余談になるが、僕としては是非ビールのつまみにサテを食いたいものだが、前述のような宗教上の都合により、特に屋台のような場所でサテを食べるような場合には、ビールと共に楽しむことができないのが少し残念である。