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「グレッグ・ポポビッチに学ぶ最強のチームづくり」という本があったら是非読んでみたい

 2週連続でスポーツについて書こうと思う。これまではプロ野球、特に広島カープに関する記事を多く書いてきたが、今回は野球ネタではない。先日、新聞を読んでいた時に、プロ野球セ・リーグの順位表に目をやると、僕がシーズン開始前に予想していた順位とまるっきり逆になっていて、つくづく自分の野球を見る目のなさを思い知らされた。前回の記事で、「広島カープが勝てないのは僕が応援しているからだ」ということを書き、今後はカープとは距離を置いてあんまり熱心に応援するのはやめることにしたら、どうもカープは依然として最下位ではあるものの、目下3連勝中とのことで、やはり僕が応援しているチームは勝てないというジンクスは続いているようである。僕が次にカープについて記事を書くときは、カープがリーグ優勝をしたことを確認してからにしたいと思っている。そして「昔からずっと広島カープのファンでした。選手の皆さん優勝おめでとうございます。」などと書いて、本当のファンの方から顰蹙を買いたいと考えている。
 今回はアメリカのプロバスケットボールリーグ(NBA)について書いてみたい。NBAのシーズンは佳境を迎えており、もうすぐレギュラーシーズンが終了し、プレイオフに突入する。NBAは東と西の2つのカンファレンスに分かれており、それぞれのカンファレンスの上位8チームがプレイオフに進出し、4戦先勝のトーナメント方式で東と西の王者を決める。最後に両カンファレンスの王者の間でファイナルが行われるという寸法である。
 現在、NBAではプレイオフ進出をかけた熾烈なシード争いが繰り広げられている。今年は東がアトランタ・ホークス、西がゴールデンステート・ウォリアーズがトップシードに名乗りを上げそうである。両チームとも、僕がNBAを見始めた20年前からずっと弱小チームであったが、ここにきてようやく陽の目を見つつあるのだなと感慨深い。
 そんな中で、昨年のチャンピオンチームのサンアントニオ・スパーズが、現在10連勝と調子を上げてきており、西カンファレンスの3位にまで順位を上げてきている。サンアントニオ・スパーズというチームは、ティム・ダンカントニー・パーカー、マヌ・ジノビリという3人の選手が核となって、かれこれ15年以上を戦い続けてきている。2000年代だけでも4度のチャンピオンに輝いており、まさに王朝(Dynasty)と呼ぶに相応しいチームである。
 このチームを率いているのがグレッグ・ポポビッチというヘッドコーチである。ポポビッチのチーム作りや目標到達に至るまでの手法は、バスケットボールのみならず全てのスポーツチームのコーチを務める者が手本とすべき存在である。スポーツチームどころか、全ての組織を運営する者と言っても過言ではないかもしれない。
 ポポビッチがチームのために設定している目標は単純明快で、「6月に行われるNBAファイナルに勝って、NBAのチャンピオンチームになること」である。おそらくNBAのヘッドコーチを勤めている者であれば、ほぼ全員が同じ目標を定めているだろう。しかしポポビッチほど明確にそのメッセージが伝わってくるコーチを他に知らない。それほど彼の戦略は徹底しており、そのためにはファンが嫌がる無粋なことも平気でやる。
 例えば最近行われた試合で、当時西カンファレンス6位にいたスパーズは、同カンファレンス3位のヒューストン・ロケッツと対戦した。この試合でスパーズがロケッツに勝てば、一気に順位を3位まで押し上げられる。この大一番に、ポポビッチが取った戦術といえば、フリースローが苦手なジョッシュ・スミスにファウルを繰り返し、26回もフリースローを打たせたのである。このうち、スミスが決められたのは半分に満たない。結局スパーズはロケッツに1点差で勝利し、ロケッツとスパーズの順位は逆転したわけである。世の中から卑怯だとか汚いとか言われても仕方がない勝ち方ではあると思うが、ポポビッチはファイナルに勝つために敢えてこのような戦術を取ったのである。
 少し前のシーズンのことになるが、スパーズが前年度の王者であるマイアミ・ヒートと対戦をした際には、ファイナル前哨戦として、注目を浴びていたのにも関わらず、主力選手をマイアミに帯同せず、ほとんど控えメンバーでこの一戦を戦い、全米を大いに落胆させ、NBAの会長が謝罪声明を出し、スパーズも制裁金を課されるはめになってしまった。ポポビッチがなぜこのような暴挙とも言える行動を取ったかというと、試合続きで疲れが溜まっていた主力選手を休ませるためであったのだ。彼にとっては、レギュラーシーズンという局地戦で勝利を拾うよりも、最後に勝つことが至上命題であり、そのためには世間から避難されようが、罰金を食らおうがお構いなしなのである。それほどまでにポポビッチの戦略は徹底している。
 上述のように、現在チームが10連勝中なのも決してまぐれではなく、ポポビッチが、プレイオフが始まるこの時期に、選手達のコンディションをピークに持ってくるようにきちんと管理しているのだ。ポポビッチは、シーズンが始まる11月から、ファイナルを戦う6月までの全体的なスケジュールを見据え、計画的にチーム運営を行っているのである。
 ポポビッチの戦略の特徴をもう一つ挙げるとすれば、スーパースターの個の力に頼ることなく、組織の力で勝つというものである。NBAの醍醐味と言えば、選手たちの高い身体能力を活かした豪快なダンクシュートや華麗なアシストが挙げられる。しかし、スパーズの試合ではそれらが見られることはあまりない。NBAでよく見られる派手なプレイを期待してスパーズの試合を見ても、全く面白くないこと請け合いである。
 しかし、派手なスーパースターに頼ったチーム作りというのは、そのスーパースターがベンチに下がったり怪我をしてしまったらそれで終わりなのである。スパーズは長い間同じ選手で戦い続けているため、核となる選手が高齢化してきている。高齢化した選手は怪我をしやすくなる。ポポビッチは選手が怪我をしないよう、十分に休養を選手に与える一方で、代わりの選手がコートに入っている間にも、チーム力が落ちることのないようなシステムを作り上げているのである。
 おそらく、それはポポビッチのこれまでの経歴によるものだろうと推察される。ポポビッチは若かりし頃アメリカの空軍に籍を置いており、相当な期間を軍隊で過ごしている。現代戦においては、個の力など組織の力の前においては無に等しいという。ポポビッチはバスケットボールのチーム作りを行う上で、この事を念頭に置いていると思われる。
 ポポビッチのシステムは非常にシンプルな発想のもとに組み立てられている。そのいくつかを断片的に挙げてみると、①シュートはフリーで打った方が入りやすい、②シュートはゴールからの距離が近いところで打った方が入りやすい、③ドリブルでボールを動かすより、パスでボールを動かした方が早い、④ディフェンスでは、相手に①~③とは逆のことをやらせた方が良い、といったものだろうか。どれも誰が聞いても頷ける大変基本的な発想だが、チームとしてそれを実践するのは非常に難しい。特にNBAのように、全世界からトップクラスの選手が集結してくるような世界ではなおさらだろう。彼らは皆一様にプライドが高く、組織の枠の中に収まることを良しとしない選手の方が多いのである。
 そんなエゴが渦巻くNBAにおいて、ポポビッチはどんな手を使っているのか、毎年自らの発想をコート上で完璧に実践できる選手を集め、見事なチームを作り上げてくる。ポポビッチが集めてくる選手を見ていると、彼らは一様にディフェンスを一生懸命に頑張り、細かいパスを繋ぎ、フリーの状態でパスを貰った選手は高い確率でシュートをゴールに沈めている。
 果たしてポポビッチはどんな風にして最強の組織を作り上げているのか。彼が将来本を書いたら是非読んでみたいと思うのだが、彼は自分の功績をひけらかすようなことは嫌いそうなので、彼の本を手に取ることができるのはいつの日になるか分からない。