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生きている実感が欲しければハノイで道を渡れ

初めての海外旅行にどこに行こうか迷っている人がいたら、僕は迷わずベトナムハノイをお勧めする。ハノイは安全で物価が安い上に食べ物が美味しいときている。観光スポットもそれほど多くないので、やろうと思えば週末を使って主な観光先を巡ることも不可能ではない。そういった手軽さがウケているのか、ハノイを訪れる観光客が年々数を増しているように感じる。旧市街などを歩くと、バックパックを背負った西洋人を多く見かける。観光客相手の店ではどこも英語が通じるので、彼らにとっても異国情緒を手軽に味わえる良い旅先なのだろうなと思う。

ただし、ひとつ気をつけなければならないのは、バイクの交通量の多さである。しかも、交通ルールなどあってなきがごとしである。青信号だからと言って気を抜いていると、向こうからバイクが結構なスピードでこちらに向かってきたりする。初めてハノイを訪れた時には、道を渡るのにも文字通り二の足を踏んでしまい、宿泊先のホテルの周りをぐるっと回るだけで相当な体力を消耗し、ヘトヘトになってしまった。僕が交差点であっちからもこっちからも次から次にやってくるバイクの大群に圧倒されつつ、渡ろうか渡るまいか逡巡していると、ヨボヨボの婆さんが、後ろからやってきて、事もなげに道を渡っていってしまうので、実に情けない。どうしてあの婆さんは矢のように向かってくるバイクの群れをすり抜けて易々と道を渡ることができるのだろうと観察していると、婆さんとバイクの運転手との間に、気のやり取り、呼吸のやり取りのようなものがあるのではないかと感じるに至った。
婆さんの一挙手一投足にヒントを見出し、バイクの気を読みながら、これから歩こうとするコースに自分の気を投げかけながら歩いてみると、なんとか道を渡ることができた。たかだか道を渡るというだけの行為だが、やり遂げるとかなりの達成感を味わえるし、自分が無傷であることを確認すると、自分が生きているんだという実感も湧いてくる。日本で普通に暮らしていたのでは、こういう実感はなかなか湧いてこない。毎日が退屈で生きている感じがしないという人がいれば、ベトナムに行って道を横断することをお勧めする。