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ここには象はやってこない

 野生の象が突如インドにある街にやってきて、大混乱になったというテレビのニュース映像を見た。森から街に迷い込んできて、ものの数時間で100棟もの建物を破壊したというのだから、今更ながら象の持つ力には驚かされる。下手な業者よりよっぽど良い仕事をするではないか。建物に向かって突進する象と、それを遠巻きに眺める人々という圧巻なコントラスト。象がある方向に顔を向けただけで、その視界に入った人々が逃げ惑う。最終的には象を麻酔銃で眠らせた後にクレーンでトラックに運んで森に返したという話だが、麻酔で眠らされた象がトラックに積まれる時に人々が拳を突き上げて熱狂する様子を見ていると、なんだか羨ましくなってきたりする。言わばこれは平凡な日常に突然降って湧いた祭のようなものではなかろうか。秩序ある日本社会では、ある日突然目の前に象が現れるなどということはまずない。逆に日本ではそういうことが起きないように、長い間頑張って想定外のことが起きない社会を作り上げてきた。その結果、僕らが生きる時代には、特段の熱狂も興奮もなく、毎日が想定の範囲の中で始まり、終わっていく。それだけに一旦想定外のことが起きると対応がきかなくなってしまう。「何分初めての事で・・・」とか「これは映画の中の光景なのか現実の光景なのか・・・」などと寝ぼけたことしか言えず、ただ目の前の事態を傍観するしかできない。たまには日本にでも、二階の部屋で寝ていたら、外が騒がしいので窓の外を見たら、象のつぶらな瞳と目が合った・・・などということがたまに起きるくらいで丁度良いんじゃないか、などと馬鹿げたことを思ってしまった。