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ラッセル・ウェストブルックはシーズン平均トリプル・ダブルを達成できるか

 2016-17シーズンのNBAは、どうせ去年と同じクリーブランド・キャバリアーズとゴールデンステート・ウォリアーズの2チームがファイナルを戦うことになることが分かりきっているし、あまり一生懸命見る気が起こらなかったのだが、シーズンを半分ほど消化したところで、ある2人の選手の記録から目が離せなくなってきている。
 ひとりはジェームズ・ハーデンという、ヒューストン・ロケッツに所属している、長い髭がトレードマークの選手である。ハーデンが挑む記録は、得点とアシストの2部門において、リーグトップになるというものである。もしハーデンが今シーズン、この記録を達成すれば、1972-73シーズンに、ネイト・アーチボルトという選手が達成して以来の快挙となる。
 どんな競技でもそうだと思うが、得点とアシストの両方を量産することがいかに難しいかということは想像に難くない。これを可能にしたのは、今期から新たにロケッツのヘッドコーチに就任した、マイク・ダントーニの奇策である。ダントーニは、リーグでも1,2を争う点取り屋のハーデンを、コート上の司令塔であるポイントガードのポジションに抜擢したのである。定石から考えれば、チームにハーデンのようなスコアラーがいる場合、その選手にはひたすらボールを供給し続けて、そのボールをバスケットに入れること以外は何も考えずに、ひたすら点を取ることだけに集中させてやるべきなのだ。それなのに、ダントーニはハーデンに対してボールを供給する側の役割を与えてしまったのである。
 これにはハーデン自身も大いに戸惑ったと思うが、蓋を開けてみればダントーニ采配は功を奏し、ハーデンはそれまでと同様に高い得点能力を維持しつつ、チームメイトに対するアシストも量産することに成功した。その結果、ヒューストン・ロケッツはセンターのドワイト・ハワードが移籍により抜けてしまったにもかかわらず、カンファレンス3位の高位置につけている。敢えて粗探しをするのであれば、ターンオーバーの数が1試合につき、6近くあることだろうか。ターンオーバーとはオフェンス時にシュートまで持っていくことができずに相手側にボールを与えてしまうミスのことを言うが、ターンオーバーの少なさは優秀なポイントガードの指標になる。クリス・ポール、ステファン・カリー、カイル・ロウリーといって一流のポイントガードターンオーバーを1試合3以下に抑えているところを見ると、ポイントガードとしてのハーデンにはまだまだ改善の余地があるのかもしれない。それでもこれまでのキャリアにおいて得点を取ることにのみ注力していたハーデンが、ポイントガードの役割を引き受け、プレイの幅を広げたことは賞賛に値すると思う。
 さて、二人目の選手は、オクラホマシティ・サンダーのラッセル・ウェストブルックである。ウェストブルックの目指す記録は、3つの部門で2ケタの記録を残すトリプル・ダブルをシーズン平均で達成するというものである。こちらについては、オスカー・ロバートソンが1961-62シーズンに記録して以来、実に50年以上達成されていない。今シーズン、82試合を戦うシーズンの半分を経過した時点で、ウェストブルックは得点、リバウンド、アシストの3部門で平均2ケタを記録している。トリプル・ダブルというのは、1度でも達成すればちょっとした騒ぎになるくらいの記録なのだが、ウェストブルックは既に今シーズンだけで20回以上のトリプル・ダブルを達成し、シーズン平均でもそれを維持しているのだから恐ろしい。
 そもそもアシストとリバウンドを稼ぐにはそれぞれ全く異なった才能が必要になる。前述のハーデンと同じく、ウェストブルックもサンダーにおいて司令塔であるポイントガードのポジションを任されているので、アシスト数を稼げるというのはまあ分からなくもない。しかしリバウンドに関しては、ポイントガードが量産するのは至難の業である。リバウントとはリングから外れたシュートを取ることだが、一般的にリバウンドを取るためには身長と体格が必要であるとされている。バスケットボールのリングの周りには、センターやパワーフォワードといった、背が高く、体格ががっしりしているポジションの選手が配置される。NBA級ともなれば、2m10cm以上のセンターなど、ザラにいる世界である。リングの周りでは、そんな巨漢たちがリバウンドを取るために体を張って場所を取り、リングから外れたボールに飛びつくという肉弾戦が繰り広げられる。そんな中にあって、身長わずか193cmのウェストブルックがどうして一試合で10本以上ものリバウンドを取れるのだろうか。
 これを可能にしているのは、ウェストブルックの人並み外れた身体能力である。Youtubeなどでウェストブルックのハイライトを見れば分かるが、まさしく全身バネと言って良い。ウェストブルックがジャンプすると、まるでフロアがトランポリンなのではないかと疑うほど高く、そして最高到達点まで達するスピードが速い。ウェストブルックは身長を補ってなお余りある瞬発力をフル活用してリバウンドを量産しているのだ。
 もっとも、ウェストブルックがシーズン平均トリプル・ダブルという記録を狙えるようになったのは、チーム事情が背景にあることも理解しておかねばならない。オクラホマシティ・サンダーは、昨シーズンまでラッセル・ウェストブルックとケビン・デュラントの2枚看板のチームであったが、オフシーズンにデュラントがゴールデンステート・ウォリアーズに移籍してしまったのである。そのため、ウェストブルックはチームにおいて一人で何から何までやらなければならない環境になってしまったのである。今のところ、ウェストブルックもそうしたプレッシャーにめげるどころか、自分一人にスポットライトが当たる状況を逆に楽しんでいるようにも見える。
 さらに言えば、かつてオクラホマシティ・サンダーには、ウェストブルックとデュラントの他に、冒頭に出てきたハーデンも一緒にプレイしていたのだから、当時のサンダーというチームがいかに可能性を秘めていたかということを考えないわけにはいかない。